結婚10年目のリフレッシュ休暇
A real story from our community

「なあ由美、次の結婚記念日、どこか旅行に行かないか?」
夫の拓也からそう提案されたのは、夕食後の片付けをしている時だった。結婚して10年。二人の子供たちも上の子が小学校高学年、下の子が中学年になり、少しずつ手がかからなくなってきた。しかしそれに反比例するように私たち夫婦の会話は減っていた。日々の生活に追われ、互いを"パパ"、"ママ"と呼び合い、いつしか男女としての意識は薄れてしまっていた。
「旅行?いいけど、子供たちはどうするの?」 「今回は二人だけで行きたいんだ。子供たちはお義母さんにお願いしてみるから」
拓也の真剣な眼差しに私は少し驚いた。二人だけの旅行なんて新婚旅行以来かもしれない。私の心にほんの少し期待の光が灯った。
拓也が予約してくれたのは、箱根の山奥に佇む隠れ家のような旅館だった。子供たちを実家に預け、二人でロマンスカーに乗り込む。隣に座る拓也の横顔を盗み見ると、付き合い始めた頃のような少し緊張した面持ちをしている。それがなんだか可笑しくて愛おしかった。
旅館に到着すると、仲居さんが私たちを部屋へと案内してくれた。部屋の窓からは雄大な山々が見渡せ、静寂が私たちを包み込む。そして部屋の奥には湯けむりが立ち上る信楽焼の露天風呂があった。
「すごい…」
思わず声が漏れる。日常の喧騒から完全に切り離された空間。ここなら失いかけていた何かを取り戻せるかもしれない。そんな予感がした。
夕食までの間、私たちは早速二人で露天風呂に入ることにした。少し恥ずかしかったけれど、拓也が優しく私の手を引いてくれた。温かいお湯に身を沈めると、体の芯から力が抜けていくのが分かった。
「気持ちいいね…」 「ああ…」
しばらく私たちは無言で景色を眺めていた。鳥のさえずりと風が木々を揺らす音だけが聞こえる。その静寂が心地よかった。
不意に拓也が私の肩をそっと抱き寄せた。
「由美、いつもありがとうな。家のことも子供たちのことも、任せきりで…」 「ううん、そんなことないよ。拓也こそ毎日遅くまでお仕事お疲れ様」
私たちは互いの労をねぎらい合った。それは普段の生活の中ではなかなか言えない言葉だった。肌と肌が触れ合うこの特別な空間だからこそ素直になれたのかもしれない。
拓也の指が私のうなじを優しく撫でる。その感触に私の体は久しぶりに甘く疼いた。私はそっと目を閉じ、彼の胸に顔をうずめた。
夕食は部屋でゆっくりと頂いた。旬の食材をふんだんに使った懐石料理はどれも絶品だった。美味しい料理とお酒に私たちの会話も弾む。昔の思い出話や子供たちの将来のこと。そしてこれからの二人のこと。
「由美は何かやりたいこととかないのか?」 「え?私?」 「ああ。これからは自分の時間も大切にしてほしいんだ」
拓也の言葉に胸が熱くなった。彼はちゃんと私のことを見ていてくれたんだ。
食事が終わり布団が敷かれると、部屋の照明が落とされムーディーな雰囲気に包まれた。どちらからともなく私たちは布団の中で求め合った。
それはここ数年の義務的で流れ作業のようなセックスとは全く違っていた。拓也のキスはまるで初めて私に触れるかのように丁寧で情熱的だった。彼の指は私がどこを触れられると喜ぶのか全てを思い出すかのように全身を愛撫した。
「拓也…」 「由美…愛してる」
久しぶりに聞いたその言葉に私の目から涙が溢れた。私も拓也を愛している。ただその気持ちを日々の忙しさの中に置き忘れていただけなのだ。
拓もは私の涙を優しく拭うと、ゆっくりと私の中へと入ってきた。その瞬間私たちは深く、深く繋がった。体の繋がりだけではない。心の、魂の繋がりを確かに感じた。
私たちは何度も互いの名前を呼びながら快感の頂点へと達した。終わった後もすぐに離れることはなく、汗ばんだ体を抱きしめ合った。拓也の心臓の鼓動が私の背中に心地よく響く。
「由美、これからもよろしくな」 「こちらこそ…」
その夜私たちは何度も愛し合った。まるで失われた10年間の時間を取り戻すかのように。
翌朝私たちは少し寝坊をした。窓から差し込む朝日が部屋を明るく照らしている。隣で眠る拓也の寝顔はとても穏やかだった。
「ん…」
私が身じろぎをすると、拓也が目を覚ました。彼は私のことを見ると、愛おしそうに微笑んで、私の髪を優しく撫でた。
「おはよう、由美」 「おはよう、拓也」
私たちはどちらからともなく唇を重ねた。それは朝の挨拶のキスというにはあまりにも情熱的で、すぐに私たちの体は再び熱を帯びていった。
「もう一回、いいか?」
拓也の掠れた声が私の耳元で囁く。私は言葉の代わりに、彼の首に腕を回して応えた。
朝の光の中で愛し合うのは、また格別だった。互いの体をはっきりと視認できるからこそ、より興奮が高まる。拓也の鍛えられた体、私の体に刻まれた妊娠線。その全てが、私たちの10年間の歴史そのものだった。
私たちは互いの体を確かめ合うように、何度も何度も愛し合った。そして、疲れては眠り、目覚めてはまた求め合う。そんな贅沢な時間を、私たちは心ゆくまで堪能した。
旅館をチェックアウトする頃には、私たちはすっかり元の、いや、それ以上の関係に戻っていた。手をつなぎ、笑い合い、時にはくだらないことで言い争う。そんな当たり前の日常が、とても愛おしく感じられた。
帰り道、拓也がポツリと言った。
「また来ような、二人で」 「うん、絶対ね」
私は拓也の肩に頭を預け、幸せを噛み締めた。結婚10年目のリフレッシュ休暇。それは、私たち夫婦にとって、新たなスタート地点となったのだった。




